伝統荷車を作る人々

伝統荷車を作る人々

【2022年9月】シチリア島の歴史のある町、ラグーサ・イブラで男爵家を訪問した後、アレッツォ男爵は私達を伝統荷車の工房に連れて行ってくれました。

ラグーサの荷車工房、Cinabroのダミアーノ
人形劇のパペットを思わせる化粧をしたダミアーノ

この工房、Cinabro Carrettieri がツアー最後の訪問地です。

シチリアには独特の文化がいろいろあるのですが、Carreto Sicilianoと呼ばれるこの派手な荷車もその一つ。

凝った模様の荷車を馬に引かせて通りを行くのは、一種のステータス・シンボルだったそうで、20世紀初めが最盛期だったようです。

この伝統荷車を今も伝統的なやり方で作っているのがこの工房。

ラグーサの荷車工房、Cinabroで荷車を作るビアジョ
職人肌の無口なおじさん

今ではたった6人しか残っていない職人の一人であるダミアーノという38歳の男性が案内してくれました。

口髭をたくわえ、うっすらお化粧をしていて、数日前に見た人形劇の登場人物を思わせる様相です。

彼が絵描きで、木を切ったり削ったりして荷車を作るビアジョと二人でこの事業をやっています。

ビアジョの方は飾り気のない無口なただのおじさんでしたが。

大きなCarrettoを作るには丸1年を費やすとのこと。

ラグーサの荷車工房、Cinabroにあった荷車のディテール
このエンジン部分が音をたてる

エンジンに当たる重要な部分には複雑な装飾があって、動くとカタカタ音をたてるのだそうです。

かつては、その音を聞いて、家の中から人々が顔を出して、荷車が通るのを見送ったものなのだとか。

今では、装飾用でしかないCarrettoですが、シチリアのあちらこちらで見かけます。

私達が滞在したシラクサの町でも、カフェの店先で見かけました。

ダミアーノはけっこう、やり手らしく、ファッションブランドのドルチェ&ガッバーナも顧客の一人。

ラグーサの荷車工房、Cinabroの一角
ドルチェ&ガッバーナの袋になったのは、工房のこの辺り

ドメニコ・ドルチェのヴィラの家具の一部を手掛けたほか、この工房の写真が、ドルチェ&ガッバーナの買い物袋に使われたそうです。

確かに、ごちゃごちゃっと無造作に道具が置かれ、壁には所せましと絵や写真が飾られたこの工房の様子は絵になります。

また、イタリアの家電メーカー、スメッグも顧客で、Carrettoに施されるような派手な絵のトースターなどが作られたそうです。

ダミアーノは古いフィアット500にも、このような絵を描き、話題になったことがあるとのこと。

シラクサのカフェの店先に置いてあった荷車
今はもっぱら装飾用のCarrettoーシラクサで

「アフガンの少女」という世界的に有名な写真を撮った米写真家、スティーブ・マッカリーがやってきて、その車と彼本人の写真を撮ったそうです。

そのフィアット500は現在、シチリア島北東部のメッシーナの博物館に展示されているという話でした。

という具合に話題の豊富なこの工房、ちょっと芝居がかった出で立ちのマーケティング上手なダミアーノがカギなのでしょう。

希少価値だけでは、なかなか生き残れそうにない業種ですから。

ちなみに、今のところ、彼らの跡を継ぐ人はいないそうです。