1980年のモスクワ 3

1980年のモスクワ 3

モスクワの町を歩いていて驚いたのは、スーパーの棚に食べ物がなかったことです。

有名なデパートの「グム」にもありませんでした。

けれど、ホテルでは私達は、立派な朝食や夕食を振舞われました。

毎回、何種類かのキャビアが出たし、毎回、違ったメニューでした。

まるで我々が大名か何かのような待遇でした。

ある晩にはボリショイ劇場でバレエ「ドン・キホーテ」を見ました。

当時、世界中で有名だったトップ・ダンサーによるパフォーマンスでした。

ここで驚いたのは観客です。

ごく普通の人たちが、おしゃれをすることもなく、気取った様子もなく普通に見に来ていました。

ミラノのスカラ座の観客とは大違いです。

スーパーで食物を買うのに苦労しているのと同じ人たちなのかな、と不思議に思って見たことでした。

若い人が多かったのにもびっくり。

西側ではこういったオペラ座の観客はたいてい、年配の人達ですから。

かわいい女の子が多かったのも嬉しい驚きでした。

別の日にはクレムリンに行きました。

政府の執務室など、中を見せてもらいましたが、すべてが重々しく絢爛豪華で感心したものです。

日中に町を歩いていて気づいたことは、零下5度前後の中、女性が道路掃除をしていたことです。

生まれて初めて見ました。

私の国では、少なくとも当時、女性がこんな仕事をするなんて想像もつかないことでした。

こういう重労働は男がするものだと決まっていましたから。

それから、宇宙飛行士記念博物館にも行きました。

当時、ソ連は宇宙開発で米国と競い合っていて、優位にあることを誇りにしていましたから、鼻高々で案内してくれました。

最初に宇宙に飛び出した生き物、犬の「ライカ」を見たのが印象に残っています。