バローロ宮殿・前編

バローロ宮殿・前編

【2018年3月】アルゼンチンブエノスアイレスの中心に、Palacio Baroloバローロ宮殿)という一風変わった建物があります。

市内観光中にここを訪れたとき、面白そうだったので、この建物内を巡るツアーに参加することにしました。

所定の時間に行ってみると、つばのある帽子を被り、サスペンダー付きのズボンを履いた小柄なガイドのお姉さんの周りに17,8人のツーリストが集まりました。

これは1923年に完成した建物で、イタリア人のルイス・バローロがテキスタイル事業で儲けた資金を提供、同じイタリア人のマリオ・パランティが設計したのだそうです。

この建物がダンテの神曲をテーマに作られたことは市内観光中に学びましたが、具体例としては、高さが100メートルであるのは、神曲が100の歌章から成り立っていることに由来しているのだそうです。

地下と1階が地獄、2~14階が煉獄、15階から最上階の22階が天国という設定だとのこと。

「神曲」に加えて、ダンテもバローロもパランティも、フリーメイソンのメンバーだったことから、床やエレベーターなどの隅々に、その印も見られるという話でした。

イタリアのカラーラの大理石など、資材は殆ど、イタリアから運んできたそうですが、エレベーターだけはスイス製

ジャバラを開ける古風で味のあるエレベーターで、天国とか地獄とかの話をするものだから、私は映画「エンゼルハート」(1987年)を思い出しました。

地獄である一階の床のガラス製の大きな花柄は、かつて、その下から灯を付けたため、火が燃えるような不気味さを醸し出したそうです。

壁にあるドラゴンなどの彫刻は、男女一対ずつあるとのこと。

そんな地獄の説明の後、私達はエレベーターで4階の煉獄へ。

吹き抜けになっているところで、下界を見下ろしながら説明の続きを聞きました。

この建物は、もともとオフィスビルとして建てられたもので、398室作られたそうです。

壁の案内標識に、2階と3階がないのは、バローロが個人的に使用するつもりだったからで、彼は人に会わずに済むよう、地下からの特別なエレベーターを作ったものの、本人はビルの完成をみることなく、亡くなったのだとか。

このビルにはガスの設備はなく、お湯が出ないので、人が住むことは不可能とのこと。

また、トイレはすべて、オフィスの外の公共部分に設えてあるという話でした。

今でも日々、約900人がここで働ているそうで、私達が見学している間にも、ふつうの人々がふつうに出入りしていました。

オフィスの一部屋はとても小さく、以前は二部屋以上を買い取って壁をぶち抜くといった改装が加えられたこともありましたが、1990年代に文化財として指定されたため、それは禁止されたそうです。

夫が、天国に近づくほど家賃が高いのかと聞いたら、その通りだとのこと。

家賃は月々、4000~18000ペソ(約2万~9万円)と破格。

ただ、古い建物なのでメンテナンス費用が高いのだそうです。

エレベーター付近の壁にあった注意書きには、「窓から物を投げるな。つばを吐くな」とあります。

ガイドさんによると、この建物ができた当時、噛みタバコがはやっていて、皆、つばを吐いていたとのことでした。