ガイドブックに載っていないユートピア

ガイドブックに載っていないユートピア

【2021年11月】スペインのアンダルシア地方の旅、エシハからタクシーで行ったのは、マリナレーダという小さい村です。

マリナレーダの村の紋章
ユートピアと記されている村の紋章

ここはガイドブックにも載っていないし、観光案内所の人も、このタクシーの運転手も「何もないよ」と勧めなかったところです。

けれど、ここは「ユートピア」なのです。

村民みずから、そう呼んでいるので、そうなのでしょう。

夫が今回の旅の計画中にネットで見つけたのですが、この21世紀に共産主義を体現している珍しい村。

人口は2800人程度です。

マリナレーダの役場
立派な村役場

簡単にまとめると、1970年代に独裁者のフランコが死去した後の民主化の過程で、極左ともいえる当時30歳だったファン・マヌエル・サンチェス・ゴルディージョさんが村長に選ばれました。

彼は貧しい小作農の村だったマリナレーダをハンガーストライキなどの闘争によって、村民のための土地を獲得。

村民全員が働ける環境づくりに努めました。

農作物についても、機械化を進めて人手を減らす世の流れに逆らって、わざと人手のいる作物を選び、雇用を確保。

マリナレーダの競技場と周りの壁
カラフルな壁の落書きと競技場

21世紀に入ってからは、農業だけでなく、食品加工工場を築き、雇用率を一段と上げたそうです。

2008年の世界金融危機の後、アンダルシア地方では失業率が30%にまで上がったのに、ここマリナレーダの失業率は6%程度にとどまったとか。

組合に所属している村民の給料は均一で、住宅については、自ら汗を流して建設した家には、家賃月々15ユーロ(2000円弱)で住めるとのこと。

マリナレーダの壁の絵
社会主義礼賛の壁の絵

こういった体制を確立した今も「闘争」は続けていて、例えば、大型スーパーから食料品を略奪し、貧しい人々やホームレスに配ったという一件も。

こうした派手な行いは、世界的なメディアにも取り上げられ、日本ではイミダスがこのゴルディージョ村長を取材したようです。

というわけで、観光地では全くないのですが、こんな特殊な村がどんなところか見てみたかったので、タクシーで行ってみたというわけ。

お昼前のこの時間、村は全く閑散としていました。

マリナレーダの壁のチェ・ゲバラ
チェ・ゲバラは人気らしい

写真はとれませんでしたが、ネッカチーフにエプロンという1950年代風の出で立ちの女性をちらっと2人見かけたので、この村で流行のファッションなのかも。

後はほとんど人影もなく、大通りに面した壁に描かれた、いかにもそれらしい落書きを見物しました。

ここに連れてきてくれたタクシーの運転手は「ここの人々は働き者だからね、この時間は皆、働きに出ているから村の中には人がいないんだよ」と言っていました。

でも、「ユートピアというのは、どうだかね。少しでも意見が異なる人は、つまはじきにされるよ」とも。

確かに、この村はカリスマ性のあるゴルディージョ村長に率いられているともいえそうで、現在69歳である村長の後継者がこの体制を維持できるかは未知数ですね。